研究者 | 所属大学 | |
---|---|---|
代表者 | 田中 悟 教授 | 神戸市外国語大学 |
佐竹 隆幸 教授 | 兵庫県立大学 |
「近畿バイオクラスター」における知識の創造と伝播
近年、地域経済活性化の手段として産業クラスターに関する議論が注目を集め、多くの地域において産業クラスターを創造 ・育成しようとする動きが生じている。先端的で専門的な知識が必要となる特定の産業を核にして、この産業と関連諸機関 の連携を通じてプラスのフィードバック効果を引き起こし、地域経済を活性化させようとする考え方である。現代の産業は高度で先端的な技術に立脚しており、しかもグローバル化を通じた競争が進行しているから、クラスターの核となる産業は国際的な競争にも生き残ることのできる、常にイノベーションを引き起こしうるような存在である必要がある。従来の産業集積論とは異なり、産業クラスターにおいては、核となる領域での先端的で継続的な知識(情報)の創造と伝播が決定的に重要な役割を演ずるのである。
このような視点から、本研究ではまず、経済学的な観点からこれらの問題にアプローチしているいくつかの既存研究のサーベイを行った。先端的で専門的な知識の創造はしばしば大学や公的研究機関において行われるから、既存研究の多くはこの種の機関による知識の創造や伝播が地域性を持つか否かに焦点を当ててきたのである。JaffeやZucker & Darbyらによる一連の研究のサーベイを通じて、知識の創造や伝播が地域性を持つか否かは、
こうしたサーベイをベースにして、本研究ではバイオテクノロジーを中心としたクラスターとして認知されている「近畿バイオ・クラスター」を取り上げ、先端的な知識の創造と伝播にとって地域性が重要な要素となっているか否かを検討した。具体的には、「近畿バイオクラスター」に位置するバイオ関連の企業・大学・公的研究機関が保有するバイオ関連特許の発明者情報を用いて、発明者間のコーディネーションが地域性を持っていると判断されるか否か、またこれらのコーディネーションの成果が地域性と関係を有するか否かについての検証を行った。関西地区のバイオクラスターが生成してからあまり時間が経過していないためにこれらの検証はあくまで暫定的なものに留まるが、本研究では、発明者間のコーディネーション並びにコーディネーションの成果の双方に関して、地域性が重要であるという証拠を見出すことができなかった。この帰結は、創造された新しい知識が--発明者間のコーディネーションを通じて--関西という地域に留まらず、他地域に流出する(スピルオーバー)傾向を持っていることを示唆している。これらの点から、本研究ではクラスターによる地域活性化を図る際に、他地域との連携や発明者間でのコーディネーション(とりわけ"star scientists"と企業内発明者との)のあり方が極めて重要な要素となりうることを指摘している。
もっとも、クラスターによる地域活性化は、大学・公的研究機関・企業内研究者によって創造された先端的で専門的な技術知識だけが重要な要素であるわけではない。この種の知識の創造と伝播を支える関連諸企業や機関の経済活動が必要不可欠な活動となるからである。本研究では、こうしたクラスターを支えるプラットフォームについて議論を行っていない点で問題を含んでいると言える。この点については他日を期したいと考えている。
UNITY(Academic Community Hall)
Kobe Academic Park Association for the Promotion of Inter-University Research and Exchange
Copyright © 1994 - 2025 UNITY. All Rights Reserved. -- このサイトについて
This page is produced by Kobe City College of Technology.